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春雨はいたくな降りそ桜花
まだ見ぬ人に散らまくも惜し

歌の意味
春雨よ、そんなにひどく降るな。桜の花が、まだ見ていない人のために散ってしまうのは惜しい。
鑑賞
巻第二 春歌下 110

詞書「題しらず」
 散る花の四首目である。前歌が惜しむ心を鴬に託したのに対し、この歌は雨に向かって直接に降るなと命じる。詞書は「題しらず」で、詠作の事情は伝わっていない。
 作者の山部赤人は本巻では第百四首に続く二度目の登場となる。
 場面は桜の咲くころの雨、場所は特定されない。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。

 初句
二句「春雨はいたくな降りそ」の「な〜そ」は禁止を表す言い方で、そんなに降るな、の意になる。「いたく」は、はなはだしく、の意である。
 三句「桜花」で守るべきものが示される。
 四句「まだ見ぬ人に」は、まだ花を見ていない人のために、の意である。自分ではなく他人のために惜しむという点にこの歌の特色がある。巻第一の第十四首で貫之が「行きて見ぬ人も偲べと」と、野へ行けなかった人のために若菜を摘んだのと同じ心である。
 結句「散らまくも惜し」の「散らまく」は「散らむ」に「く」が付いて名詞化した形で、散るであろうこと、の意になる。上代に用いられた語法である。「惜し」で言い切り、惜しむ心が直接に示される。
 雨に命じるという構えは、自然を相手に効き目のない命令を下すもので、巻第一の第十九首が雪に「花とも見よ」と言われる形をとったのとは逆に、こちらは人が自然に命じている。

な〜そ:禁止を表す言い方。〜するな
いたく:はなはだしく。ひどく
ちらまく:散るであろうこと。「まく」は名詞化する上代の語法
作者
山部赤人
出典
新古今和歌集
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