このほどは知るも知らぬも玉鉾の
行きかふ袖は花の香ぞする
- 歌の意味
-
このごろは、知っている人も知らない人も、道を行き来する袖はみな花の香がするのだった。
- 鑑賞
-
巻第二 春歌下 113
詞書「守覚法親王五十首歌よませ侍りける時」
花の香の三首目で、この一連を結ぶ。前二首が自分ひとりの衣や枕に香が移ることを詠んだのに対し、この歌は道を行く人すべてに香が及んでいると詠み、視野が一気に広がる。詞書によれば守覚法親王が詠ませた五十首歌の一つである。守覚法親王は後白河天皇の皇子で、仁和寺の御室を務めた。
作者の藤原家隆は『新古今和歌集』の撰者の一人である。巻第一では第十七首
第三十七首
第四十五首
第八十二首に現れた。
場面は桜の盛りのころ、場所は人の行き来する道である。
直接の契機は五十首歌の詠進である。
初句「このほどは」は、このごろは、の意で、花の盛りの数日を指す。
二句「知るも知らぬも」は、知り合いも見知らぬ人も、の意である。人を区別せず一様に扱う言い方で、巻第一の第八十五首の家持歌が「行かむ人来ん人」と往来する人すべてを言い尽くしたのと同じ型である。
三句「玉鉾の」は「道」に掛かる枕詞である。ここでは「道」の語は現れず、四句の「行きかふ」がそれを受けている。
四句「行きかふ袖は」は、行き来する人の袖は、の意である。人そのものではなく袖を主語に立てており、前歌の「寝覚めの袖」と語が重なる。
結句「花の香ぞする」は「ぞ」の係り結びで、「する」の連体形が結びとなる。私的な寝所の香が、ここでは往来する不特定多数の人の袖にまで及ぶ。三首で香の及ぶ範囲が、衣から枕へ、枕から道へと広がっていく配列になっている。
たまほこの:「道」に掛かる枕詞
ゆきかふ:行ったり来たりする
- 作者
-
藤原家隆
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-