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桜散る春の山辺は憂かりけり
世を逃れにと来し甲斐もなく

歌の意味
桜の散る春の山辺は、つらいところであったのだ。世を逃れようとして来た甲斐もなく。
鑑賞
巻第二 春歌下 117

詞書「題しらず」
 世を離れた者が、山でかえって花に心を乱されることを詠む。詞書は「題しらず」で、詠作の事情は伝わっていない。
 作者の恵慶法師は平安時代中期の僧で、歌人である。
 場面は桜の散るころ、場所は山辺である。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。

 初句
二句「桜散る春の山辺は」で場面が示される。山は俗世を離れる場所であるはずだが、そこに花が散っている。
 三句「憂かりけり」の「憂し」はつらい、いとわしいの意である。「けり」の詠嘆で、そうであったのだなという気づきを示す。花を美しいものとしてではなく、心を乱すものとして扱っている。
 四句「世を逃れにと」は、俗世を逃れようとして、の意である。出家して山に入った事情がここで明かされる。
 結句「来し甲斐もなく」は、来た甲斐もなく、の意で、言い切らずに余情を残す結び方である。倒置になっており、三句までの嘆きの理由が後から示される。
 巻第一の第五十一首で西行が花を見せたいと人を招いたのに続き、僧の身にありながら花に心を動かされるという主題が、ここでは離れられなさの嘆きとして現れている。

うし:つらい。いとわしい
よをのがる:俗世を離れる。出家する
かひ:効き目。もうけ
作者
恵慶法師
出典
新古今和歌集
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