古典和歌stream

はかなさを他にも言はじ桜花
咲きては散りぬあはれ世の中

歌の意味
はかなさを、ほかのものにたとえて言うまい。桜の花は咲いてはすぐ散ってしまう。ああ、これが世の中というものだ。
鑑賞
巻第二 春歌下 141

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 散る花に無常を見る歌の三首目である。前歌が理屈によって恨みを退けたのに対し、この歌は理屈を用いず、咲いて散るという事実だけを示す。原文では詞書が改めて記されていない。
 作者の「後徳大寺左大臣」は藤原実定である。左大臣に至り、藤原俊成の甥、定家の従兄にあたる。巻第一では第三十五首に現れた。
 場面は桜の散るころ、場所は特定されない。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。

 初句「はかなさを」は、頼りなくもろいことを、の意である。第百一首の式子内親王歌の初句「はかなくて」と同じ語である。
 二句「他にも言はじ」の「じ」は打消意志の助動詞で、ほかのものを引き合いに出して言うまい、の意になる。無常を語るのに他の喩えは要らない、という宣言である。巻第一の第二十八首で重之が「花とも言はじ」と見立てを拒んだのと同じ言い方であり、ここでは比喩そのものが拒まれている。
 三句「桜花」で唯一の例が挙げられる。
 四句「咲きては散りぬ」は、咲いてはすぐに散ってしまう、の意である。「ては」は動作の反復を示し、毎年それが繰り返されることを表す。
 結句「あはれ世の中」は体言止めである。「あはれ」は感動を表す語で、ここでは詠嘆の間投詞として働く。桜という一つの事実を挙げ、そのまま世の中と言い切って終わる。説明を加えないことで、断定の重さが増している。

はかなさ:頼りなくもろいこと
じ:打消意志の助動詞。〜まい
あはれ:感動を表す語。ああ
作者
藤原実定
出典
新古今和歌集
その他の歌