花もまた別れん春は思ひ出でよ
咲き散る度の心づくしを
- 歌の意味
-
花よ、おまえもまた、別れることになる春には思い出してくれ。咲いては散るたびに私が心を尽くしてきたことを。
- 鑑賞
-
巻第二 春歌下 143
詞書「花歌とてよめる」
散る花に無常を見る歌の五首目で、この一連を結ぶ。花に向かって、自分の心尽くしを覚えていてくれと呼びかける。詞書によれば花の歌として詠まれた。
作者の殷富門院大輔は後白河天皇の皇女である亮子内親王、すなわち殷富門院に仕えた女房歌人である。巻第一では第七十三首に現れた。
場面は桜の散るころ、場所は特定されない。
直接の契機は花の歌の詠出である。
初句「花もまた」の「も」は、私だけでなく花もまた、の含みである。別れを惜しむのは人だけではないという前提が置かれる。
二句「別れん春は」の「ん」は推量
意志の助動詞で、これから別れることになる春、の意になる。
三句「思ひ出でよ」は命令形による呼びかけである。巻第一の第五十二首で式子内親王が梅に「我を忘るな」と呼びかけ、第六十一首で良経が雁に「忘るなよ」と呼びかけたのと同じ型であり、応えるはずのないものに記憶を求める形が本集で繰り返されている。
四句「咲き散る度の」は、咲いては散るそのたびごとの、の意である。第百四十一首の「咲きては散りぬ」と同じ繰り返しの観念が用いられている。
結句「心づくしを」は体言止めで、三句の「思ひ出でよ」に係る倒置である。「心づくし」は心を尽くすこと、あれこれ思い悩むことをいう。第百首の俊成歌が「春に心をつくしきぬ」と詠んだのと同じ語であり、巻の初めに置かれた歌の語が、この一連の結びで呼び返されている。
こころづくし:心を尽くすこと。あれこれ思い悩むこと
たび:〜のたびごと
- 作者
-
殷富門院大輔
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-