花さそふ名残を雲に吹きとめて
しばしは匂へ春の山風
- 歌の意味
-
花を誘い散らした名残を雲に吹きとどめて、しばらくは照り映えていてくれ、春の山風よ。
- 鑑賞
-
巻第二 春歌下 145
詞書「落花といふことを」
春風に呼びかける歌の二首目である。前歌が雲を残せと求めたのに対し、この歌は散らした花の名残を雲にとどめよと求める。詞書の「落花」は散る花の意で、その題によって詠まれた。
作者の藤原雅経は飛鳥井雅経で、『新古今和歌集』の撰者の一人である。巻第一では第七十四首
第九十三首
第九十四首に現れた。
場面は桜の散った後、場所は山である。
直接の契機は「落花」の題による詠である。
初句「花さそふ」は、花を誘い出して散らす、の意で風を修飾する。第百二十八首の宮内卿歌、第百四十首の俊成女歌にも用いられた語である。
二句「名残を雲に」の「名残」は、後に残る気配や余韻をいう。散った花の余韻を、形あるものとして雲にとどめよという要求になる。
三句「吹きとめて」は、吹いてその場にとどめる、の意である。散らす働きをもつ風に、逆にとどめる働きを求めている点に無理があり、それが願いの切実さを示す。
四句「しばしは匂へ」の「匂ふ」は色がつややかに照り映える意で、命令形である。花がなくとも雲が花の色に照っていてくれ、という求めになる。
結句「春の山風」は前歌と同じ体言止めである。二首が同じ結句をもち、同じ相手への呼びかけを重ねる配列になっている。
なごり:後に残る気配や余韻
ふきとむ:吹いてその場にとどめる
しばし:しばらくのあいだ
- 作者
-
藤原雅経
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-