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昔思ふ草の庵の夜の雨に
涙な添へそ山時鳥

歌の意味
昔を思う草の庵の、夜の雨に、涙を添えてくれるな、山時鳥よ。
鑑賞
巻第三 夏歌 201

詞書「入道前関白右大臣に侍りける時、百首歌よませ侍りける郭公の歌」
 時鳥の声が涙を誘うことを、あらかじめ拒む形で詠む。詞書の「入道前関白」は藤原兼実で、その右大臣であった時に詠ませた百首歌のうち、郭公の題による歌である。巻第一の第五首の俊成歌も同じ百首の詠である。
 作者の「皇太后宮大夫俊成」は藤原俊成である。『千載和歌集』の撰者で、定家の父にあたる。巻第一では第五首
第十五首
第十六首
第五十九首、巻第二では第百首
第百十四首
第百五十九首に現れた。
 場面は夏の夜、場所は草の庵である。
 直接の契機は「郭公」の題による詠である。
 この歌は俊成の代表作の一つとして広く知られ、後世の歌論でもたびたび取り上げられた。

 初句「昔思ふ」は、過ぎた日を思う、の意である。庵にいる者の心の状態が、まず示される。
 二句「草の庵の」は草で葺いた粗末な住まいをいう。出家した身であることが、この一語で示される。
 三句「夜の雨に」で場面が定まる。昔を思う心、粗末な庵、夜の雨という三つが重ねられ、すでに涙の条件が揃っている。
 四句「涙な添へそ」の「な〜そ」は禁止を表す言い方である。巻第二の第百十首の赤人歌が春雨に降るなと命じたのと同じ形であり、自然に向かって効き目のない命令を下す型である。「添ふ」は加える意で、雨に涙を加えるな、の意になる。すでに雨で十分だという含みが働く。
 結句「山時鳥」は体言止めで、呼びかけの相手が最後に置かれる倒置である。声を待つ歌が続いてきた一連の中で、この歌だけは声を拒んでいる。待望と拒絶という反対の態度が、同じ鳥に向けられている。

くさのいほり:草で葺いた粗末な住まい
な〜そ:禁止を表す言い方。〜するな
そふ:加える
作者
藤原俊成
出典
新古今和歌集
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