- 歌の意味
-
時鳥よ、なおもう一声、思い出して鳴いてくれ。老蘇の森の、夜半の昔のことを。
- 鑑賞
-
巻第三 夏歌 207
詞書「百首歌たてまつりし時、夏歌の中に」
時鳥に向かって、昔を思い出して鳴けと呼びかける。詞書によれば百首歌を詠進した折の夏の歌である。
作者の「民部卿範光」は藤原範光(一一五四〜一二一三)である。民部卿を務めた。
場面は夏の夜、場所は近江国の歌枕である老蘇の森(現在の滋賀県近江八幡市の一帯)である。
直接の契機は百首歌の詠進である。
初句「時鳥」で相手を掲げる。
二句「なほ一声は」は、なおもう一声だけは、の意である。第百九十五首以来くり返されてきた一声の主題が、ここでは追加の一声を求める形をとる。
三句「思ひ出でよ」は命令形である。巻第二の第百四十三首の殷富門院大輔歌が花に「思ひ出でよ」と呼びかけたのと同じ言い方であり、応えるはずのないものに記憶を求める型である。
四句「老蘇の森の」は地名であるが、「老い」の音を含み、老いの観念を呼び込む。地名に心の状態を重ねる点で、第二百五首
第二百六首と同じ作り方が三首続いている。
結句「夜半の昔を」は体言止めで、三句の「思ひ出でよ」に係る倒置である。鳥に昔を思い出せと言うのは、自分が思い出しているからであり、老いた身の回想が地名の音を介して示されている。
おいそのもり:近江国の歌枕。「老い」の音を響かせる
よは:夜半。夜中
- 作者
-
藤原範光
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-