古典和歌stream

行く末を誰偲べとて夕風に
契りかをかん宿の橘

歌の意味
行く末を誰に偲べといって、夕風の中で香りを約束するのだろうか、この家の橘は。
鑑賞
巻第三 夏歌 239

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 花橘の二首目である。前歌が自分を思い出す者を問うたのに対し、この歌は橘のほうが誰に思い出させようとしているのかと問う。原文では詞書が改めて記されていない。
 作者の「右衛門督通具」は源通具である。内大臣源通親の子で、『新古今和歌集』の撰者の一人。巻第一では第四十六首、巻第二では第九十六首に現れた。
 場面は花橘の咲くころの夕暮、場所は作者の家である。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。

 初句「行く末を」は、これから先を、の意である。前歌が死後を仮定したのに続き、こちらも未来を問題にしている。
 二句「誰偲べとて」の「偲ぶ」は思い慕う、思い出す意で、「べ」は命令形である。誰に思い出せといって、の意になり、「とて」は引用である。
 三句「夕風に」で場面が定まる。香りを運ぶ風が示される。
 四句「契りかをかん」は、香りを立てることを約束するのだろうか、の意である。「か」は疑問の係助詞で、「ん」に係る。香を約束するという言い方は、橘の香が記憶を呼ぶという観念を前提としており、将来誰かに思い出させるための備えとして香が立てられていることになる。
 結句「宿の橘」は体言止めである。前歌が人の側から問うたのに対し、この歌は木の側の意図を問う。二首で同じ主題が視点を替えて扱われている。

ゆくすゑ:これから先。将来
しのぶ:思い慕う。思い出す
ちぎる:約束する
作者
源通具
出典
新古今和歌集
その他の歌