女郎花野辺のふるさと思ひ出でて
宿りし虫の声や恋しき
- 歌の意味
-
女郎花よ、野辺の古里を思い出して、そこに宿っていた虫の声が恋しいのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第四 秋歌上 337
詞書は前の歌に続き「題しらず」
女郎花の二首目である。前歌が花を待つ人に見立てたのに続き、この歌は花に思い出す心を与える。原文では詞書が改めて記されていない。
作者の藤原元真は平安時代中期の歌人で、三十六歌仙の一人に数えられる。巻第三では第百八十八首に現れた。
場面は秋、場所は野辺である。
詠まれた直接の契機は伝わらない。
初句「女郎花」で呼びかけの相手が掲げられる。
二句「野辺のふるさと」は、もとあった野辺、の意である。「ふるさと」は本集の春歌でくり返された語で、ここでは花にとっての元の場所をいう。折り取られて移された花が、元の野を思うという設定になる。
三句「思ひ出でて」は、思い出して、の意である。巻第二の第百四十三首、巻第三の第二百七首でも命令形で用いられた語であるが、ここでは花自身の行為として述べられる。
四句「宿りし虫の」は、その野に宿っていた虫をいう。「し」は過去の助動詞の連体形である。
結句「声や恋しき」の「や」は疑問の係助詞で、「恋しき」の連体形が結びとなる。花が虫の声を恋しがるという二重の擬人化であり、前歌が花に人を待たせたのに対し、この歌は花に過去を惜しませている。
ふるさと:もとあった場所。古びた里
やどる:とどまる。住む
こひし:慕わしい。恋しい
- 作者
-
藤原元真
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-