古典和歌stream

身にとまる思ひをおきのうは葉にて
このころ悲し夕暮の空

歌の意味
身にとどまる思いを、荻の上葉に置いておいて、このごろは悲しい。夕暮の空よ。
鑑賞
巻第四 秋歌上 352

詞書「題しらず」
 ここから荻の上葉を詠む歌が三首続く。この歌はその一首目で、自らの思いを荻の葉に置くと詠む。詞書は「題しらず」で、詠作の事情は伝わっていない。
 作者の「前大僧正慈円」は慈円である。関白藤原忠通の子で、天台座主を四度務め、歴史書『愚管抄』を著した。巻第一では第三十三首、巻第二では第九十五首、巻第三では第百七十七首ほかに現れた。第三百二首の作者である藤原忠通は父にあたる。
 場面は秋の夕暮、場所は荻の生えるあたりである。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。

 初句「身にとまる」は、身にとどまる、の意である。晴らしようのない思いが自分の内に残ることを示す。
 二句「思ひをおきの」の「おき」は、思いを置く意と、草の名の荻との掛詞である。「置き」から「荻」へ音が渡ることで、内面の思いが目の前の草に移し置かれる。
 三句「うは葉にて」の「うは葉」は葉の上のほうをいい、第三百六首
第三百十一首でも用いられた語である。
 四句「このころ悲し」は、このごろは悲しい、の意である。理由を述べずに感情だけが置かれる。
 結句「夕暮の空」は体言止めである。思いを草に預けたうえで、なお悲しいという構成であり、第三百四首の実定歌が「ことぞともなく涙落ちけり」と理由のない涙を詠んだのと同じ調子をもつ。

みにとまる:身にとどまる
おき:置く意と、草の名の荻を掛ける
うはば:葉の上のほう
作者
慈円
出典
新古今和歌集
その他の歌