憂き身には眺むるかひもなかりけり
心に曇る秋の夜の月
- 歌の意味
-
つらい身にとっては眺める甲斐もなかったのだ。心のうちで曇ってしまう、秋の夜の月よ。
- 鑑賞
-
巻第四 秋歌上 404
詞書「題しらず」
ここから月と心の曇りを詠む歌が続く。この歌は、外の月は晴れていても心が曇ると詠む。詞書は「題しらず」で、詠作の事情は伝わっていない。
作者の「前大僧正慈円」は慈円である。本巻では第三百九十首に続く五度目の登場となる。
場面は秋の夜、場所は特定されない。
詠まれた直接の契機は伝わらない。
初句「憂き身には」の「憂し」はつらい、いとわしいの意である。巻第二の第百四十首の俊成女歌の「憂き世」と同じ語である。
二句「眺むるかひも」の「かひ」は効き目、もうけをいう。巻第二の第百十七首の恵慶歌でも「来し甲斐もなく」と用いられていた。
三句「なかりけり」は「けり」による言い切りである。
四句「心に曇る」がこの歌の眼目である。曇るのは空ではなく心であり、月そのものは晴れている。曇りの場所を外から内へ移すことで、見る者の側に原因があることが示される。第三百七十九首の慈円歌が「涙曇らで」と涙による曇りを詠んだのに続き、同じ作者がここでは心による曇りを詠んでいる。
結句「秋の夜の月」は体言止めである。本巻でくり返される結句であり、第三百七十五首
第三百八十五首
第三百九十首に続いて四度目となる。
うきみ:つらい身の上
かひ:効き目。もうけ
くもる:曇る。ここでは心が晴れない意
- 作者
-
慈円
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-