雁の来るふしみの小田に夢さめて
寝ぬ夜の庵に月を見るかな
- 歌の意味
-
雁の来る伏見の小田で夢から覚めて、眠らない夜の庵で月を見ることだ。
- 鑑賞
-
巻第四 秋歌上 427
詞書「和歌所歌合に田家月を」
田の庵の二首目である。詞書の「田家月」は、田の家の月、の意である。田の庵で夢から覚め、そのまま月を見ると詠む。
作者の「前大僧正慈円」は慈円である。本巻では第四百四首に続く六度目の登場となる。
場面は秋の夜、場所は山城国の伏見の田である。第二百九十一首
第二百九十二首でも伏見が詠まれていた。
直接の契機は和歌所の歌合への出詠である。
初句「雁の来る」は、雁が渡って来る、の意である。秋の景物として雁が置かれる。
二句「ふしみの小田に」の「ふしみ」は地名であるが、その音に「臥し見」すなわち横になって見る意が響く。下の「夢さめて」「月を見る」と呼応し、庵に臥して月を見るという姿が地名の中に折り込まれる。
三句「夢さめて」で目覚めが示される。
四句「寝ぬ夜の庵に」は、眠らない夜の庵で、の意である。田の庵は本来眠るための場所ではなく、田を守るために夜を明かす場所である。
結句「月を見るかな」は「かな」の詠嘆で結ばれる。労働のために起きている場所が、そのまま月を見る場所になるという構成であり、第四百一首の長明歌が労働する海人の袖に月を見たのと同じく、働く場に月を置いている。
ふしみ:山城国の地名。「臥し見」の音を響かせる
をだ:小さな田。「を」は語調を整える接頭語
いほ:粗末な小屋
- 作者
-
慈円
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-