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下紅葉かつ散る山の夕時雨
濡れてやひとり鹿の鳴くらん

歌の意味
下葉の紅葉が色づきながら一方では散ってもゆく山に、夕時雨が降っている。その時雨に濡れて、鹿はひとりで鳴いているのだろうか。
鑑賞
巻第五 秋歌下 437

詞書「和歌所にて男ども歌詠み侍りしに、夕べの鹿といふことを」
 鹿を詠む一連の一首目で、秋歌下の巻頭歌である。紅葉の散る山の夕時雨の中で、鹿がひとり濡れて鳴いているのだろうと思いやる。詞書によれば、和歌所の歌会で「夕べの鹿」を題として詠まれた。
 作者は藤原光隆の子で、従二位宮内卿に至った。和歌所の寄人であり、新古今集の撰者の一人である。
 場面は晩秋の夕暮、場所は下葉の紅葉が散る山である。
 直接の契機は、建仁元年(1201)七月に後鳥羽院が設けた和歌所での歌会で、「夕べの鹿」の題が出されたことである。「男ども」はそこに出仕した廷臣たちを指す。

 初句「下紅葉」は、木の下葉が色づいたもの、の意である。上葉より先に色づく下葉によって、秋の深まりが示される。
 二句「かつ散る山の」の「かつ」は、一方では、の意で、色づきながら同時に散ってもゆくさまを表す。
 三句「夕時雨」は、夕方に降る通り雨である。ここまでの上の句は、紅葉と時雨による目に見える景となっている。
 四句「濡れてやひとり」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と係り結びをなす。時雨に濡れながら、妻もなくひとりでいる鹿の身の上を思いやる。「濡れて」には、鹿の声を聞く人の袖の涙も重なる。
 結句「鹿の鳴くらん」の「らん」は現在推量の助動詞「らむ」の連体形で、姿の見えない鹿の声からその様子を推し量る。上の句の視覚から下の句の聴覚へと移る構成である。巻第四の月の歌群を受けて、ここから鹿の一連が始まる。次歌の第四百三十八首が夜更けの尾上の月へ視線を上げるのに対し、本歌は夕暮の山の下葉に目を向け、時刻と上下が対をなす。「ひとり」は本巻の第四百五十首「ひとり寝や」に、夕暮は第四百四十三首「秋の夕暮」に引き継がれる。

したもみぢ:木の下葉が色づくこと、またその葉
ゆふしぐれ:夕方に降る時雨。時雨は晩秋から初冬にかけて降ったりやんだりする雨
わかどころ:後鳥羽院が新古今集撰進のために院御所に設けた機関
よりうど:和歌所に置かれた職員
作者
藤原家隆
出典
新古今和歌集
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