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たぐへ来る松の嵐やたゆむらん
尾上に帰るさを鹿の声

歌の意味
鹿の声を伴って吹いてきた松の嵐が、弱まったのだろうか。尾上へと帰ってゆく、さ牡鹿の声が聞こえる。
鑑賞
巻第五 秋歌下 444

詞書「百首歌よみ侍りけるに」
 鹿を詠む一連の八首目である。声を運んできた松の嵐が弱まったのか、鹿の声が尾上へ帰ってゆくように聞こえる。詞書によれば、百首歌の中の一首として詠まれた。
 作者は九条兼実の子で、摂政太政大臣に至り、後京極殿と称された。新古今集の仮名序を執筆した。
 場面は松の嵐の吹く秋、場所は鹿の声が峰へ遠ざかってゆく山である。
 直接の契機は百首歌の詠作であるが、詞書に百首の名や年次は記されていない。

 初句「たぐへ来る」の「たぐへ」は、下二段動詞「たぐふ」の連用形で、伴わせる意である。松の嵐が鹿の声を伴って吹いてきた、ということである。
 二句「松の嵐や」の「や」は疑問の係助詞である。本巻の第四百四十二首の「松の梢を渡る」「嵐に宿す」を受けた語の運びとなっている。
 三句「たゆむらん」の「たゆむ」は勢いが弱まる意で、「らん」は現在推量の助動詞「らむ」の連体形として「や」と係り結びをなす。
 四句「尾上に帰る」は、嵐が弱まって声がこちらへ届かなくなり、峰の方へ遠ざかるさまを、声が帰ってゆくものとしてとらえる。「尾上」は第四百三十八首「尾上の月」と対応する。
 結句「さを鹿の声」は体言止めで、第四百三十九首、第四百四十二首と同じ結句である。風の強弱と声の遠近を結び付け、聴覚だけで空間の移動を描いている。第四百四十二首の行く声に対して帰る声を詠んで往還の対をなし、風に運ばれる鹿の声の一連をここで締めくくる。次の第四百四十五首からは、鹿の声に目を覚ます寝覚めの歌へと移る。

たぐふ:伴う。下二段活用では、伴わせる意
たゆむ:勢いが弱まる、ゆるむ
をのへ:山の峰
作者
藤原良経
出典
新古今和歌集
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