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さを鹿の妻問ふ山の岡辺なる
早稲田は刈らじ霜は置くとも

歌の意味
さ牡鹿が妻を求めて鳴く山の岡のあたりにある早稲田は、刈らずにおこう。たとえ霜が置いても。
鑑賞
巻第五 秋歌下 459

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 秋の田と秋の寒さを詠む一連の七首目である。さ牡鹿が妻を求めて鳴く山の岡辺の早稲田は、霜が置いても刈らずにおこうと詠む。詞書は前の歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 本歌には作者名が記されておらず、前歌を受けて人麿の歌として配されている。作者は飛鳥時代、持統天皇、文武天皇の朝廷に仕えた歌人である。
 場面は霜の置くころの秋、場所は鹿の鳴く山の岡のあたりの早稲田である。
 直接の契機は伝わらない。
 万葉集巻十に「さを鹿の妻呼ぶ山の岡辺なる早稲田は刈らじ霜は降るとも」とあり、新古今集では二句を「妻問ふ山の」、結句を「霜は置くとも」とする。

 初句「さを鹿の」の「さ」は接頭語で、牡鹿を指す。鹿を詠む一連を終えた後に、田の歌の中で再び鹿が現れる。
 二句「妻問ふ山の」の「妻問ふ」は、妻を求めて呼びかける意である。本巻の第四百四十六首「妻問ふ鹿」と同じ語である。
 三句「岡辺なる」は、岡のあたりにある、の意である。
 四句「早稲田は刈らじ」の「早稲田」は早く実る稲を植えた田、「じ」は打消意志の助動詞で、刈るまい、の意である。ここで句が切れる。
 結句「霜は置くとも」の「とも」は逆接仮定の接続助詞で、たとえ霜が置いても、の意となり、倒置によって四句の決意を強める。稲が霜に傷むとしても、鹿が妻を呼ぶ場所を荒らさずにおこうという、鹿への思いやりが示される。第四百四十八首では田を守る者が鹿を驚かして追い払ったが、本歌では鹿のために田を刈らずにおくといい、田と鹿の関係が反転している。霜は前歌の第四百五十八首「霜降りて」を受ける。

つまどふ:妻を求めて呼びかける
をかべ:岡のあたり
わさだ:早く実る稲を植えた田
作者
柿本人麿
出典
新古今和歌集
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