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衣打つ音は枕にすがはらや
ふしみの夢を幾夜残しつ

歌の意味
衣を打つ砧の音を枕にして寝る菅原の伏見の里で、臥して見る夢を、幾夜途中のまま残してきたことだろう。
鑑賞
巻第五 秋歌下 476

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 擣衣を詠む一連の二首目である。衣を打つ音を枕元に聞く菅原の伏見の里で、臥して見る夢を幾夜も途中で破られてきたと詠む。詞書は前の歌に続いて題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者は関白藤原忠通の子で、九条兼実の弟にあたる。天台座主を四度務め、歴史書『愚管抄』を著した。
 場面は秋の夜ごと、場所は菅原の伏見の里である。菅原や伏見は大和国の歌枕で、現在の奈良市の西部にあたる。
 直接の契機は伝わらない。

 初句「衣打つ」は、砧で衣を打つ、の意で、題材の擣衣を示す。
 二句「音は枕に」は、衣を打つ音を枕元に聞きながら、の意で、三句の「す」へ続く。
 三句「すがはらや」は、音を枕に「す」る意と、地名の「菅原」とを掛ける掛詞である。「や」は詠嘆の間投助詞で、地名を呼び出す。
 四句「ふしみの夢を」の「ふしみ」は、地名の「伏見」と、臥して「見る」夢の意とを掛ける掛詞である。
 結句「幾夜残しつ」の「つ」は完了の助動詞で、「幾夜」とともに、幾夜夢を見果てずに残してきたことか、の意となる。砧の音によって夢が途中で破られることを、地名に掛けた掛詞を重ねて詠む技巧の歌である。本巻の第四百四十五首では鹿の声が見果てぬ夢を破ったが、本歌では砧の音が夢を残させており、夢を破る音が鹿から砧へと移っている。次歌の第四百七十七首も「知らぬ夢路」と、砧の音に妨げられる眠りを詠む。

すがはら:音を枕に「す」る意と、地名の「菅原」を掛ける
ふしみ:地名の「伏見」と、臥して「見る」意を掛ける
作者
慈円
出典
新古今和歌集
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