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雁鳴きて吹く風寒み唐衣
君待ちがてに打たぬ夜ぞなき

歌の意味
雁が鳴いて吹く風が寒いので、あなたの帰りを待ちかねて、衣を打たない夜はない。
鑑賞
巻第五 秋歌下 482

詞書「中納言兼輔家の屏風歌」
 擣衣を詠む一連の八首目である。雁が鳴き風が寒くなって、あなたを待ちかねて衣を打たない夜はないと詠む。詞書によれば、中納言藤原兼輔の家の屏風に添えた歌である。
 作者は平安前期の歌人で、古今集の撰者の一人である。土佐守を務め、『土佐日記』を著した。
 場面は雁の鳴く秋の夜、場所は夫の帰りを待つ家である。
 直接の契機は、藤原兼輔の家の屏風絵に添える歌を詠んだことである。兼輔は堤中納言と呼ばれた歌人で、屏風歌は屏風の絵柄に合わせてその場面の人物の心で詠む歌である。

 初句「雁鳴きて」は、雁が鳴いて、の意で、秋の深まりを告げる。
 二句「吹く風寒み」は、「…を…み」の「を」を省いた形で、吹く風が寒いので、の意である。本巻の第四百五十五首「手を寒み」、第四百五十六首「かりがね寒み」と同じ「寒み」の形で、寒さが衣を打つ理由となる。
 三句「唐衣」は美しい衣の意で、結句の「打たぬ」の対象となる。
 四句「君待ちがてに」の「がてに」は、…しかねて、の意で、あなたを待ちかねて、となる。
 結句「打たぬ夜ぞなき」は、打たない夜はない、の意の二重否定で、「ぞ」は強意の係助詞として連体形「なき」で結ぶ。毎夜衣を打つ営みに、帰らぬ人を待つ思いを重ねている。前歌の第四百八十一首が旅の空にいる側から故郷の擣衣を思い、雁を便りの使いとしたのに対し、本歌は雁の声を聞きながら待つ側が衣を打ち、同じ雁を置いて待たれる側と待つ側とを並べている。

からころも:美しい衣。もとは唐風の衣をいう
まちがて:待ちかねること。「まちがてに」で、待ちかねて
作者
紀貫之
出典
新古今和歌集
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