古典和歌stream

千たび打つ砧の音に夢覚めて
物思ふ袖の露ぞ砕くる

歌の意味
幾度となく打つ砧の音に夢から覚めて、物思いに沈む袖の露が砕け散ることだ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 484

詞書は前の歌に続き「擣衣の心を」
 擣衣を詠む一連の十首目である。幾度も打つ砧の音に夢を覚まされ、物思う袖に置いた露が砕け散ると詠む。詞書は前の歌に続き、「擣衣」を題として詠まれた。
 作者は後白河天皇の皇女で、賀茂の斎院を務めた。藤原俊成に和歌を学んだ。
 場面は秋の夜、場所は砧の音の響く寝所である。
 直接の契機は「擣衣」の題による詠である。
 初句「千たび打つ」は、和漢朗詠集の擣衣に採られた白居易の詩句「八月九月正に長き夜、千声万声了む時無し」に通じる表現である。

 初句「千たび打つ」は、幾度となく打つ、の意で、夜通し絶え間なく響く砧の音を示す。
 二句「砧の音に」の「砧」は、衣を打つための台、またそれを打つことである。
 三句「夢覚めて」は、砧の音によって夢が破られた、の意である。本巻の第四百七十六首、第四百七十七首の砧の音に妨げられる夢を受けている。
 四句「物思ふ袖の」は、物思いに沈む人の袖で、第四百六十九首「物思ふ袖より露や習ひけん」と同じ語である。露の一連で詠まれた袖の露と物思いの結び付きを受ける。
 結句「露ぞ砕くる」の「ぞ」は強意の係助詞で、下二段動詞「砕く」の連体形「砕くる」で結ぶ。砧を打つ音の響きに合わせて、袖に置いた涙の露が砕け散るさまを捉え、夢から覚めた後の物思いの激しさを、露の砕ける像によって表している。音と涙を一つの動きに結んだ、擣衣の歌と露の歌を重ねた一首である。

きぬた:衣を打つための台、またそれを打つこと
くだく:砕ける
作者
式子内親王
出典
新古今和歌集
その他の歌