古典和歌stream

九重にうつろひぬとも菊の花
もとの籬を思ひ忘るな

歌の意味
宮中へ移って色が変わってしまっても、菊の花よ、もとの籬を忘れないでおくれ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 508

詞書「鳥羽院御時、内裏より菊を召しけるに、奉るとて結びつけ侍りける」
 菊を詠む一連の二首目である。宮中へ移って色が変わっても、もとの籬を忘れるなと菊に呼びかける。詞書によれば、鳥羽天皇の代に宮中から菊を召された折、献上する菊に結びつけた歌である。
 作者は花園左大臣源有仁の妻である。源有仁は輔仁親王の子で、左大臣に至った。
 場面は菊の盛りの秋、場所は菊を育てた作者の家の籬と、菊が移される宮中である。
 直接の契機は、鳥羽天皇の代に宮中から菊の献上を求められ、菊を奉る際に歌を結びつけたことである。

 初句「九重に」の「九重」は宮中である。菊が宮中へ移されることを示す。
 二句「うつろひぬとも」の「うつろひ」は、宮中へ場所を「移ろふ」意と、菊の花の色が「移ろふ」意とを掛ける掛詞である。「ぬ」は完了、「とも」は逆接仮定で、移り変わってしまっても、の意となる。
 三句「菊の花」は呼びかけで、菊を擬人化して語りかけている。
 四句「もとの籬を」は、もと咲いていた家の籬を、の意である。前歌の第五百七首の「籬の菊」を受けて、同じ籬を菊のふるさととしている。
 結句「思ひ忘るな」の「な」は禁止の終助詞で、思い忘れるな、の意である。宮中へ献上される晴れがましさの中で、育てた者の名残惜しさを、場所と色との二つの「移ろひ」に託して詠む。前歌の第五百七首が霜を待つ菊、すなわちこれから色の移ろう菊を詠んだのに対し、本歌は移ろった後も忘れるなと先を思いやっており、移ろいの前と後の対をなす。

ここのへ:宮中
うつろふ:宮中へ場所を移る意と、花の色が移り変わる意を掛ける
まがき:竹や柴で目を粗く編んだ垣
作者
花園左大臣室
出典
新古今和歌集
その他の歌