人は来ず風に木の葉は散り果てて
夜な夜な虫は声弱るなり
- 歌の意味
-
人は訪れず、風に木の葉はすっかり散り尽くして、夜ごとに虫の声は弱ってゆくようだ。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌下 535
詞書「題しらず」
紅葉を詠む一連の十三首目である。人は訪れず、木の葉は風に散り果て、夜ごとに虫の声も弱ってゆくと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者は平安中期の歌人で、丹後掾を務めたことから曽丹とも呼ばれた。
場面は秋の終わりに近い夜々、場所は人の訪れのない住まいである。
直接の契機は伝わらない。
初句「人は来ず」は、訪れる人は来ない、の意で、ここで句が切れる。前歌の第五百三十四首が「人を待つとなけれど」と打ち消した訪れのなさを、はっきりと言い切っている。
二句「風に木の葉は」は、風によって木の葉は、の意である。
三句「散り果てて」は、すっかり散り尽くして、の意で、紅葉の盛りの終わったことを示す。
四句「夜な夜な虫は」は、夜ごとに虫は、の意で、日を追って衰えてゆく時の経過を示す。
結句「声弱るなり」の「なり」は音声にもとづく推定の助動詞で、虫の声が次第に弱ってゆくのが聞こえることを表す。人、木の葉、虫と、秋を彩ったものが次々に失われてゆくさまを三つ並べ、秋の終わりの寂しさを畳みかけている。本巻の第四百七十二首「弱るか声の遠ざかりゆく」、第五百十首「虫の音いたくかれにけるかな」と同じく、秋の深まりにつれて衰える虫の声を詠むが、本歌では人の訪れの絶えと落葉の尽きることとを重ね、秋の終わりのしるしを重層的に示している。
ちりはつ:すっかり散ってしまう
よわる:弱くなる、衰える
- 作者
-
曽禰好忠
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-