神無月時雨降るらし佐保山の
まさきのかづら色まさりゆく
- 歌の意味
-
神無月の時雨が降っているらしい。佐保山のまさきの葛の色が、しだいに深まってゆく。
- 鑑賞
-
巻第六 冬歌 574
詞書「寛平御時后の宮の歌合に」
時雨を詠む一連の五首目である。佐保山のまさきの葛の色が深まってゆくのを見て、時雨が降っているらしいと推し量る。詞書によれば、寛平の御代の后の宮の歌合で詠まれた歌である。
作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わらない。
場面は神無月、場所は大和国の佐保山である。
直接の契機は、宇多天皇の寛平の御代に、天皇の母后班子女王が催した寛平御時后宮歌合での詠である。
初句「神無月」は陰暦十月の異称である。本巻の第五百七十一首と同じ初句で、冬の初めの時を示す。
二句「時雨降るらし」の「らし」は、根拠に基づいて推し量る推定の助動詞である。目に見える葛の色を根拠に時雨の降ったことを推し量り、ここで切れる二句切れである。
三句「佐保山の」は大和国の歌枕で、奈良の都の北にある山である。紅葉の名所としても詠まれてきた。
四句「まさきのかづら」は、ていかかずらとされる蔓草である。本巻の第五百五十七首や第五百六十一首では散るものとして詠まれたまさきの葛が、ここでは色を深めるものとして詠まれている。
結句「色まさりゆく」は、色がしだいに濃くなってゆく、の意である。「まさき」と「まさり」とで音が響き合う。時雨が木の葉を染めるという通念に立ち、葛の色から見えない時雨を推し量る構成であり、前歌が時雨と見えたものの正体を露と明かしたのに対し、この歌は目に見える色から時雨を知る歌として並んでいる。
まさきのかづら:ていかかずらとされる蔓草
きさいのみや:皇后や皇太后、またその御所
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-