君来ずはひとりや寝なん笹の葉の
み山もそよにさやぐ霜夜を
- 歌の意味
-
あなたが来ないならば、ひとりで寝ることになるのだろうか。笹の葉が深い山全体にそよそよと音を立てる、この霜の夜を。
- 鑑賞
-
巻第六 冬歌 616
詞書「崇徳院御時百首歌奉りけるに」
霜と冬枯れを詠む一連の六首目である。笹の葉が深山全体にそよぐ霜夜に、あなたが来ないならばひとりで寝ることになるのかと詠む。詞書によれば、崇徳院の御代に百首歌を奉った折の歌である。
作者は左京大夫藤原顕輔の子で、六条藤家の歌人として歌学書『袋草紙』『奥義抄』を著した。
場面は霜の置く冬の夜、場所は笹のそよぐ山に近い住まいである。
直接の契機は、崇徳院の御代に召された百首歌の詠進である。
本歌は前歌と同じく、『万葉集』巻第二の柿本人麻呂の歌「笹の葉はみ山もさやにさやげども我は妹思ふ別れ来ぬれば」である。
初句「君来ずは」は、あなたが来ないならば、の意で、「ずは」は打消の仮定を表す。
二句「ひとりや寝なん」の「や」は疑問の係助詞で、「なん」は完了の助動詞「ぬ」の未然形と推量の助動詞「む」とからなり、ひとりで寝ることになるのだろうか、の意となる。ここで切れる二句切れで、下の句とは倒置の関係になる。
三句「笹の葉の」は、本歌の初句「笹の葉は」を受けた語である。
四句「み山もそよに」は、深い山全体がそよそよと、の意で、本歌の二句「み山もさやに」を受けている。前歌が「さやに」をそのまま用いたのに対し、この歌は「そよに」とし、結句に「さやぐ」を置いている。
結句「さやぐ霜夜を」は、ざわざわと音を立てる霜の夜を、の意で、体言に「を」を添えて結ぶ。本歌の「さやげども」を「さやぐ」として取り込み、妻を思う本歌の恋の心を、来ない人を待つ独り寝の心へと移している。前歌が同じ本歌から冬の景を詠んだのに対し、この歌は恋の心を生かして霜夜の独り寝を詠んでおり、本巻の第六百十一首の宇治の橋姫とも、霜の夜に独り寝をする者の心で通じている。
さやぐ:ざわざわと音を立てる
しもよ:霜の置く寒い夜
- 作者
-
藤原清輔
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-