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網代木にいさよふ波の音更けて
ひとりや寝ぬる宇治の橋姫

歌の意味
網代木にためらうように寄せる波の音が、夜更けとともに深まってゆく。ひとりで寝ているのだろうか、宇治の橋姫は。
鑑賞
巻第六 冬歌 637

詞書は前の歌に続き「最勝四天王院の障子に宇治川描きたる所」
 氷を詠む一連の九首目である。ただしこの歌に氷の語はなく、網代木に寄せる宇治川の波の音が夜更けに響くなか、宇治の橋姫はひとりで寝ているのだろうかと思いやる。詞書は前歌から続き、同じ最勝四天王院の障子の宇治川の絵に添えた歌である。
 作者は関白藤原忠通の子で、天台座主を四度務め、歴史書『愚管抄』を著した。
 場面は冬の夜更け、場所は網代の設けられた山城国の宇治川である。
 直接の契機は、前歌と同じく、最勝四天王院の障子に描かれた宇治川の名所絵に添える歌として詠んだことである。
 上の句は『万葉集』巻第三の柿本人麻呂の歌「もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも」を、下の句は『古今和歌集』のよみ人しらずの歌「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」を踏まえている。宇治川の網代は、冬に氷魚を捕るために設けられた仕掛けである。

 初句「網代木に」は、網代を仕掛けるために川に打ち込んだ杭に、の意である。
 二句「いさよふ波の」は、ためらうように寄せては止まる波の、の意である。網代木にせかれて流れのとどこおるさまをいう。
 三句「音更けて」は、夜が更けるとともに波の音が深まって、の意である。
 四句「ひとりや寝ぬる」は、疑問の係助詞「や」を受けて、動詞「寝」の連体形「寝ぬる」で結ぶ係り結びで、ひとりで寝ているのだろうか、の意となる。ここで切れる四句切れで、結句とは倒置の関係になる。
 結句「宇治の橋姫」は体言止めで、本巻の第六百十一首と同じ結句である。前歌が待つ夜のむなしく明けた曙の橋姫を詠んだのに対し、この歌は夜更けの波音のなかでひとり寝る橋姫を思いやっており、同じ障子絵の宇治川に添えた二首で、夜更けと曙という時の違いを詠み分けている。

あじろぎ:網代を仕掛けるために川に打ち込んだ杭
あじろ:竹や木を編んで川に仕掛け、魚を捕る仕掛け
いさよふ:ためらって進まない、とどこおる
ひを:鮎の稚魚
作者
慈円
出典
新古今和歌集
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