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吉野なる夏実の川の川淀に
鴨ぞ鳴くなる山陰にして

歌の意味
吉野にある夏実の川の、流れの淀んだ所で、鴨の鳴く声がする。山の陰になっている所で。
鑑賞
巻第六 冬歌 654

詞書「題しらず」
 水鳥を詠む一連の三首目で、この一連の終わりの歌である。吉野の夏実の川の川淀で、山陰に鴨の鳴く声がすると詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者は天智天皇の孫で、志貴皇子の子にあたる奈良時代の歌人である。
 場面は冬、場所は大和国吉野の夏実の川の川淀である。
 直接の契機は伝わらない。
 この歌は『万葉集』巻第三に湯原王の歌として収められている。

 初句「吉野なる」は、吉野にある、の意で、「なる」は存在を表す助動詞「なり」の連体形である。
 二句「夏実の川の」は、吉野の夏実のあたりを流れる吉野川をいう。今の奈良県吉野町菜摘のあたりである。
 三句「川淀に」は、川の流れの淀んだ所に、の意である。
 四句「鴨ぞ鳴くなる」は、係助詞「ぞ」を受けて伝聞推定の助動詞「なり」の連体形「なる」で結ぶ係り結びで、鴨の鳴く声がする、の意となる。ここで切れる四句切れで、結句とは倒置の関係になる。
 結句「山陰にして」は、山の陰になっている所で、の意である。山陰の淀みに鳴く鴨の声を聞く、静かで奥深い景を詠む。前歌までの独り寝の嘆きを託した水鳥の歌から、万葉の素朴な叙景の歌へと移り、水鳥の一連を結んでいる。

かはよど:川の流れが淀んでいる所
やまかげ:山の陰になっている所
作者
湯原王
出典
新古今和歌集
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