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花見んと植ゑけん人もなき宿の
桜は去年の春ぞ咲かまし

歌の意味
花を見ようと植えたであろう人も、今はいない家の桜は、去年の春にこそ咲けばよかったのに。
鑑賞
巻第八 哀傷歌 763

詞書「人の桜を植ゑ置きて、その年の四月に亡くなりにける、又の年初めて花咲きたるを見て」
 春の死別を詠む一連の五首目である。花を見ようと植えた人も今はいない家の桜は、去年の春に咲けばよかったのにと詠む。詞書によれば、ある人が桜を植えてその年の四月に亡くなり、翌年初めて花が咲いたのを見て詠んだ歌である。
 作者は平安時代中期の歌人で、対馬守となって任地で没した。中古三十六歌仙の一人である。
 場面は桜を植えた人が亡くなった翌年の春、場所は故人の家である。
 直接の契機は、故人の植えた桜が初めて花を咲かせたのを見たことである。

 初句「花見んと」は、花を見ようとして、の意である。桜を植えた人の思いを初句に置く。
 二句「植ゑけん人も」の「けん」は過去推量で、植えたであろう人も、の意である。
 三句「なき宿の」は、その人が亡くなって今はいない家の、の意である。
 四句「桜は去年の」の「去年」は、植えた人がまだ生きていた春をさす。その年の四月に亡くなったので、去年の春にはまだ花を待っていたことになる。
 結句「春ぞ咲かまし」の「まし」は反実仮想で、咲けばよかったのに、の意である。係助詞「ぞ」を受けて連体形で結ぶ。植えた人の生きていた春に咲いていれば花を見せられたのに、という嘆きであり、咲いた花を見てかえって故人の不在を思う。前歌が花の散ることを死に重ねたのに対し、ここでは花の咲くことが悲しみを呼ぶ。

うう:植える
やど:家、住まい
こぞ:去年
作者
大江嘉言
出典
新古今和歌集
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