置き添ふる露とともには消えもせで
涙にのみもうき沈むかな
- 歌の意味
-
置き加わる露とともに消えてしまうこともなく、ただ涙の中にばかり浮き沈みして、つらく過ごしていることだ。
- 鑑賞
-
巻第八 哀傷歌 781
詞書「返し」
秋の景物に故人をしのぶ一連の七首目で、前歌への返しである。置き加わる露とともに消えることもなく、ただ涙の中に浮き沈みしていると応える。詞書は返しで、前歌の大弐三位の贈歌に答えたものである。
作者は「読人しらず」で、名は記されていない。前歌の詞書から、幼い子に先立たれた人であることがわかる。
場面は前歌と同じ秋のころ、場所は記されていない。
直接の契機は、大弐三位から贈られた前歌への返しである。
初句「置き添ふる」は、前歌の四句「置きや添ふらん」を受ける。問いかけの語をそのまま取って答えている。
二句「露とともには」は、前歌の結句「秋の夕露」を受ける。「は」は取り立ての助詞で、露とともにだけは、の意となる。
三句「消えもせで」の「で」は打消の接続で、消えることもしないで、の意である。露は消えるのに、自分は消えることもなく生き残っている。
四句「涙にのみも」は、ただ涙にばかり、の意である。
結句「うき沈むかな」の「うき」は、「浮き」と「憂き」を掛ける掛詞である。涙の中に浮き沈みする意に、つらく沈む意が重なる。「かな」は詠嘆である。前歌が袖の涙に露が添うと詠んだのに対し、ここでは露とともに消えもせず、涙の中に身が浮き沈みすると、涙を身の沈むほどのものとして返している。
おきそふ:さらに置き加わる
うく:浮き沈みする意の浮きと、つらい意の憂きを掛ける
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-