思ひ出づるをりたく柴と聞くからに
たぐひ知られぬ夕煙かな
- 歌の意味
-
亡き人を思い出す折に折って焚く柴と聞くやいなや、ほかに比べるもののない、悲しい夕煙であることよと思われる。
- 鑑賞
-
巻第八 哀傷歌 802
詞書「返し」
冬の景物に故人をしのぶ一連の三首目で、前歌への返しである。思い出す折に焚く柴と聞くとすぐに、比べるもののない夕煙であると思われると応える。詞書は返しで、前歌の後鳥羽院の贈歌に答えたものである。
作者は関白藤原忠通の子で、天台座主を四度務め、歴史書『愚管抄』を著した。
場面は前歌と同じ十月、場所は記されていない。
直接の契機は、後鳥羽院から贈られた前歌への返しである。
初句「思ひ出づる」は、前歌の初句をそのまま受ける。
二句「をりたく柴と」の「をり」は、前歌と同じく、思い出す「折」の意と、柴を「折り」焚く意を掛ける掛詞である。前歌の二句をほぼそのまま引き、「と」で院の言葉として受け止める。
三句「聞くからに」の「からに」は、…するとすぐに、の意である。院の歌を聞いたとたんに心が動かされることをいう。
四句「たぐひ知られぬ」の「たぐひ」は、並ぶもの、比べるものの意である。「れ」は自発で、比べるものがないと自然に感じられる、の意となる。
結句「夕煙かな」の「かな」は詠嘆で、前歌の三句「夕煙」を結句に据えて受ける。贈歌の初句から三句までの語をそのまま用い、院の悲しみが比べるもののないものであると受け止めて返している。次歌の第八百三首は、この煙を形見の雲として受け継ぐ。
をり:思い出す時の意の折と、柴を折る意の折りを掛ける
たぐひ:並ぶもの、比べるもの
- 作者
-
慈円
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-