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あはれ人今日の命を知らませば
難波の芦に契らざらまし

歌の意味
ああ、あの人よ。今日で尽きる命だと知っていたならば、難波の芦に託して、また帰って来ようと約束などしなかっただろうに。
鑑賞
巻第八 哀傷歌 823

詞書「大江嘉言、対馬になりて下るとて、難波堀江の芦のうら葉にと詠みて下り侍りにけるほどに、国にて亡くなりにけりと聞きて」
 生前の昔を思い返す一連の一首目である。今日の命を知っていたならば、難波の芦に託して約束などしなかったであろうにと詠む。詞書によれば、大江嘉言が対馬守となって下向するときに「難波堀江の芦のうら葉に」と詠んで下ったが、任国で亡くなったと聞いて詠んだ歌である。
 作者は俗名を橘永愷といい、出家して諸国の歌枕を訪ね歩いた。中古三十六歌仙の一人である。「大江嘉言」は平安時代中期の歌人で、対馬守となった。中古三十六歌仙の一人である。
 場面は嘉言が任国で亡くなったと聞いたころ、場所は記されていない。
 直接の契機は、対馬守として下った嘉言が任国で亡くなったと聞いたことである。
 嘉言が下向の際に詠んだ歌は、命があれば今すぐにでも帰って来ようと、難波堀江の芦の末葉に託して約束するもので、『後拾遺和歌集』に収められている。難波は摂津国の歌枕で、芦とともに詠まれた。

 初句「あはれ人」の「あはれ」は感動詞で、ああ、の意である。「人」は亡き嘉言を指し、呼びかけで始める。
 二句「今日の命を」は、今日で尽きる命を、の意である。
 三句「知らませば」の「ませば」は反実仮想で、結句の「まし」と呼応し、もし知っていたならば、の意となる。
 四句「難波の芦に」は、嘉言が下向の歌に詠んだ「難波堀江の芦のうら葉」を受ける。
 結句「契らざらまし」の「まし」は反実仮想で、約束しなかったであろうに、の意である。命があれば帰ると難波の芦に託した嘉言の約束が果たされなかったことを嘆く。前歌までの煙を詠む歌から、ここでは生前に交わされた言葉が亡き人をしのぶよすがとなり、次歌の第八百二十四首も昔を思い返す歌である。

くだる:都から地方へ行く
ちぎる:約束する
作者
能因
出典
新古今和歌集
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