見し夢にやがてまぎれぬ我が身こそ
問はるる今日もまづ悲しけれ
- 歌の意味
-
あの見た夢にそのまま紛れて消えてしまわなかった我が身こそが、お見舞いを受ける今日も、何よりもまず悲しいのである。
- 鑑賞
-
巻第八 哀傷歌 829
詞書「返し」
弔いの訪れと見舞いを詠む一連の三首目で、前歌への返しである。見た夢にそのまま紛れて消えなかった我が身こそ、見舞いを受ける今日もまず悲しいと応える。詞書は返しで、前歌の俊成の贈歌に答えたものである。
作者は九条兼実の子で、摂政太政大臣に至り、『新古今和歌集』の仮名序を書いた。
場面は前歌と同じ妻が亡くなった年の秋、場所は記されていない。
直接の契機は、俊成から贈られた前歌への返しである。
初句「見し夢に」は、前歌の「夢のうち」を受け、妻の死という見た夢に、の意である。
二句「やがてまぎれぬ」の「やがて」は、そのまま、の意である。「まぎる」は、紛れて見えなくなる意で、「ぬ」は打消の「ず」の連体形である。夢とともに消えてしまわなかった、の意となる。
三句「我が身こそ」の「こそ」は強意の係助詞で、結句の「けれ」と已然形で結ぶ。妻とともに消えずに生き残った自分の身を取り立てる。
四句「問はるる今日も」の「問はるる」は、見舞いを受ける意で、「るる」は受身である。前歌の見舞いを受けた今日をいう。
結句「まづ悲しけれ」の「まづ」は、何よりもまず、の意である。前歌が夢の中の相手を驚かすまいとしたのに対し、夢から覚めて生き残った自分こそが悲しいと返している。前歌の「夢のうち」「おどろかさじ」の語を受け、夢に紛れずに残った身の悲しみを示す。
やがて:そのまま
まぎる:紛れて見えなくなる
とふ:見舞う
- 作者
-
藤原良経
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-