あるはなく無きは数添ふ世の中に
あはれいづれの日まで嘆かん
- 歌の意味
-
生きている人は亡くなり、亡き人は数が増えてゆくこの世の中で、ああ、いったいいつの日まで嘆き続けることだろうか。
- 鑑賞
-
巻第八 哀傷歌 850
詞書「題しらず」
古い時代の歌人による哀傷歌の一連の二首目である。生きている人は亡くなり、亡き人は数が増える世の中で、いつの日まで嘆くのかと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者は平安時代前期の女流歌人で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。
場面と場所は記されていない。
直接の契機は伝わらない。
初句「あるはなく」は、生きている人は亡くなり、の意である。「ある」と「なく」を対にする。
二句「無きは数添ふ」は、亡き人は数が増えてゆく、の意である。初句と対句をなし、「ある」「なく」「無き」「数添ふ」と有無を重ねて、生者が減り死者が増えるさまをいう。
三句「世の中に」は、そのような世の中で、の意である。
四句「あはれいづれの」の「あはれ」は、ああ、という嘆きの声である。「いづれの」は、どの、の意である。
結句「日まで嘆かん」の「ん」は推量で、いつの日まで嘆くのだろうか、の意である。人の死を嘆くうちに自分もやがて嘆かれる側となり、その日まで嘆き続けるほかないという。本巻の第八百三十五首がしのぶべき亡き人の数が増えてゆくと詠んだのと、死者の数が増えてゆく同じ趣向で響き合う。前歌の第八百四十九首に続く古い時代の歌人の歌である。
かずそふ:数が増える
- 作者
-
小野小町
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-