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衣川みなれし人の別れには
袂までこそ浪はたちけれ

歌の意味
衣川の水に衣がなじむように見馴れ親しんだ人との別れには、衣の袂にまで涙の波が立つことだ。
鑑賞
巻第九 離別歌 865

詞書「題しらず」
 陸奥国にかかわる別れを詠む一連の一首目である。衣川の名に寄せて、見馴れ親しんだ人との別れには袂にまで涙の波が立つと詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者は清和天皇の皇子貞元親王の孫で、相模権守などの国司を歴任し、三十六歌仙の一人に数えられる。
 場面は親しい人との別れのとき、場所は詠み込まれた陸奥国の衣川に寄せて示される。
 直接の契機は伝わらない。
 衣川は陸奥国の歌枕で、現在の岩手県奥州市と平泉町の境のあたりを流れて北上川に注ぐ川であり、その名から袂など衣にかかわる語とともに詠まれた。

 初句「衣川」は陸奥国の歌枕である。川の名に「衣」を含み、以下の袂などの衣にかかわる語を呼び起こす。
 二句「みなれし人の」の「みなれ」は、見馴れる意と、衣が水になじむ意の水馴れを掛け、衣川の縁語となる。長く親しんできた人であることを、川の水に浸った衣に重ねている。
 三句「別れには」は、別れに際しては、の意で、係助詞「は」がその場面を取り立てる。
 四句「袂までこそ」は、袂にまでも、の意で、係助詞「こそ」が結句の已然形「けれ」と係り結びをなす。川の波が袂まで及ぶという誇張で、涙に濡れる袖を表す。
 結句「浪はたちけれ」は、波が立つことだ、の意で、「こそ」を受けて已然形で結ぶ。「たち」は波が立つ意に衣を裁つ意を掛け、衣川、袂と衣の縁語で一首を貫いている。本巻の第八百六十三首と第八百六十四首が衣と「たつ」で贈答したのに続き、本歌も衣の縁語と「たち」で別れの涙を詠んでおり、同じ語の連想で配列されている。

みなる:見馴れて親しむ意と、衣が水になじむ意を掛ける
たつ:波が立つ意と、衣を裁つ意を掛ける
たもと:袖の下の袋状の部分、また袖
作者
源重之
出典
新古今和歌集
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