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涼しさはいきの松原まさるとも
添ふる扇の風な忘れそ

歌の意味
涼しさは、あなたが行く生の松原の風のほうがまさっているとしても、贈り添えるこの扇の風を忘れないでほしい。
鑑賞
巻第九 離別歌 868

詞書「大宰帥隆家下りけるに扇賜ふとて」
 筑紫へ下る人に扇を贈る歌で、前歌までの陸奥国の歌から転じて西国へ向かう別れとなる。行き先の生の松原の涼しさがまさるとしても、贈る扇の風を忘れないでほしいと詠む。詞書によれば、藤原隆家が大宰府へ下る際に扇を与えて詠まれた。
 作者の「枇杷皇太后宮」は藤原妍子で、藤原道長の娘として三条天皇の中宮となり、のちに皇太后となった。枇杷殿に住んだことからこの呼称がある。
 場面は隆家が大宰府へ赴任する出立のとき、場所は都である。
 直接の契機は、大宰府へ下る隆家に扇を与えたことである。
 隆家は藤原道隆の子で、長和三年(1014)に大宰権帥に任じられて筑紫へ下った。生の松原は筑前国の歌枕で、現在の福岡市西区の海岸にある松原である。

 初句「涼しさは」は、涼しさについては、の意で、係助詞「は」が比べる事柄を取り立てる。扇を贈る歌にふさわしく、涼しさから歌を起こしている。
 二句「いきの松原」は筑前国の歌枕の生の松原で、「行き」を掛け、隆家の赴く先を示す。海辺の松原を吹く風の涼しさが思い浮かべられている。
 三句「まさるとも」は、まさっているとしても、の意で、逆接の仮定を表す。都の扇の風が松原の風に及ばないことをへりくだって認めている。
 四句「添ふる扇の」は、贈り添える扇の、の意である。旅に添えて持たせる扇であり、贈り主の心を添えるものでもある。
 結句「風な忘れそ」は、「な…そ」の禁止の形で、風を忘れてくれるな、の意となる。扇の風に贈り主を思い出してほしいという願いを込めており、衣を形見として贈る本巻の第八百五十七首や第八百六十首と同じく、贈り物に別れの心を託す歌である。

いきのまつばら:筑前国の歌枕の生の松原に、行きの意を掛ける
そふ:付け加える、添えて持たせる
作者
藤原妍子
出典
新古今和歌集
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