古典和歌stream

都をば心を空に出でぬとも
月見むたびに思ひおこせよ

歌の意味
都を、心も上の空のまま出て行くとしても、月を見るたびごとに、こちらを思いよこしてほしい。
鑑賞
巻第九 離別歌 893

詞書「筑紫へまかりける女に月出だしたる扇を遣はすとて」
 都を離れる人に贈る一連の二首目である。上の空のまま都を出るとしても、月を見るたびに思いをよこしてほしいと、月を描いた扇に添えて贈る。詞書によれば、筑紫へ下る女に、月を描いた扇を遣わす際に詠まれた。
 作者の名は伝わらない。
 場面は筑紫へ下る人を見送るとき、場所は都である。
 直接の契機は、筑紫へ下る女に月を描いた扇を贈ったことである。

 初句「都をば」は、都を、の意である。本巻の第八百七十六首と同じ初句であり、都を離れる歌が同じ語で起こされている。
 二句「心を空に」は、心も上の空で、の意である。旅立ちに気もそぞろなさまをいい、贈る扇に描かれた月の空とも照応する。
 三句「出でぬとも」は、出て行くとしても、の意で、完了の「ぬ」に「とも」が付いて仮定の逆接を表す。
 四句「月見むたびに」の「たび」は、度の意と、旅の意を掛ける。月を見るたびごとに、という意と、旅のたびごとに、という意とが重なり、扇の月と筑紫への旅路とを結んでいる。
 結句「思ひおこせよ」は、思いをこちらへよこせ、の意の命令形である。本巻の第八百七十七首が「月を見よ」と月を仲立ちに呼びかけたのと同じ趣向であり、扇を贈る点では第八百六十八首と対応して、贈り物に別れの心を託す歌が巻の末近くで繰り返されている。

たび:度の意と、旅の意を掛ける
おこす:こちらへよこす、送ってくる
そら:上の空、心ここにあらぬさま
作者
よみ人しらず
出典
新古今和歌集
その他の歌