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飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば
君があたりは見えずかもあらん

歌の意味
飛ぶ鳥の明日香の里をあとに残して去ってしまったならば、あなたのいるあたりは見えなくなってしまうのではないだろうか。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 896

詞書「和銅三年三月藤原の宮より奈良の宮に移り給ひける時」
 羈旅歌の巻頭歌であり、万葉の時代の旅の歌を並べる一連の一首目である。明日香の里を後にして去れば、あなたのいるあたりはもう見えなくなるだろうと、住み慣れた土地を離れる名残を詠む。詞書によれば、藤原京から平城京へ都が移された時の歌である。
 作者の元明天皇は、第四十三代の天皇である。天智天皇の皇女で、草壁皇子の妃となり、文武天皇と元正天皇の母にあたる。
 場面は和銅三年(710)三月の遷都の折、場所は明日香の里を離れてゆく道中である。
 直接の契機は藤原京から平城京への遷都である。
 この歌は『万葉集』巻一に、和銅三年の遷都の際の歌として収められている。

 初句「飛ぶ鳥の」は「明日香」にかかる枕詞である。巻頭に鳥の飛ぶ姿を置いて、旅立ちの歌を集めた羈旅歌の巻が開かれる。
 二句「明日香の里を」は、藤原京の近くにある明日香の地を指す。古くから宮が営まれてきた土地であり、住み慣れた故郷として詠まれている。
 三句「置きて去なば」は、あとに残して去ってしまったならば、の意である。「去な」は動詞「去ぬ」の未然形で、接続助詞「ば」が付いて仮定を表す。
 四句「君があたりは」は、あなたのいるあたりは、の意である。「君」が誰を指すかは歌の中に示されていない。
 結句「見えずかもあらん」は、見えなくなってしまうのではないか、の意である。係助詞「か」を受けて推量の助動詞「ん」が連体形で結ばれ、詠嘆を含んだ問いかけとなっている。遠ざかって見えなくなる隔たりへの思いは、本巻の第九百一首で白雲のたなびく山の向こうに筑紫を思いやる歌にも通じ、巻頭で羈旅歌の基調を示している。

いぬ:去る、行ってしまう
おく:あとに残す
作者
元明天皇
出典
新古今和歌集
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