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妹に恋ひわかの松原見わたせば
潮干の潟に鶴鳴き渡る

歌の意味
妻を恋い慕いながら、我がという名を持つわかの松原を見わたすと、潮の引いた干潟に鶴が鳴きながら飛んでゆく。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 897

詞書「天平十二年十月伊勢国に行幸し給ひける時」
 万葉の時代の旅の歌を並べる一連の二首目である。妻を恋いながらわかの松原を見わたすと、潮の引いた干潟を鶴が鳴いて渡ってゆくと、行幸の途上の海辺の景を詠む。詞書によれば伊勢国への行幸の時の歌である。
 作者の聖武天皇は、第四十五代の天皇である。文武天皇の皇子で、東大寺の大仏を造立したことで知られる。
 場面は天平十二年(740)十月の行幸の折、場所は伊勢国の海辺のわかの松原である。
 直接の契機は伊勢国への行幸である。
 この歌は『万葉集』巻六に、伊勢国行幸の折の天皇の御製として収められている。

 初句「妹に恋ひ」は、妻を恋い慕って、の意である。旅先で都に残した妻を思う心が冒頭に置かれ、次の「わか」を導く。
 二句「わかの松原」は伊勢国の海辺の松原である。「わか」には「我が」の意が掛けられ、妻を恋う我が身と地名とが一語に重ねられている。前歌が「君」を思う歌であったのに対し、この歌は「妹」を思う歌として並べられている。
 三句「見わたせば」は、見わたすと、の意である。已然形に接続助詞「ば」が付き、見わたしたときに目に入った景へと転じる。
 四句「潮干の潟に」は、潮の引いた干潟に、の意である。行幸の途上の海辺の景が具体的に示される。
 結句「鶴鳴き渡る」は、鶴が鳴きながら飛んでゆく、の意である。初句の「妹に恋ひ」の思いが、鳴いて渡る鶴の声に重ねられている。前歌の初句「飛ぶ鳥の」に続いて鳥の飛ぶ景で結ばれ、巻頭の二首が鳥の姿で連なっている。

いも:妻や恋人を親しんで呼ぶ語
わか:「我が」の意と、地名「わかの松原」を掛ける
しほひ:潮が引くこと、干潮
たづ:鶴の歌語
作者
聖武天皇
出典
新古今和歌集
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