古典和歌stream

白雲のたなびきわたるあしひきの
山のかけはし今日や越えなん

歌の意味
白雲が一面にたなびいているあの山の懸け橋を、今日は越えることになるのだろうか。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 906

詞書「題しらず」
 平安時代の歌人による旅の歌を並べる一連の二首目である。白雲が一面にたなびいている山の懸け橋を、今日こそ越えることになるのだろうかと、険しい山路を前にした旅人の心を詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者名は記されておらず、前歌に続いて紀貫之の作である。紀貫之は平安時代前期の歌人で、『古今和歌集』の撰者の一人で、仮名序を書き、『土佐日記』を著した。
 場面は旅の途中、場所は白雲のかかる山の懸け橋を望むところである。
 直接の契機は伝わらない。

 初句「白雲の」は、白雲が、の意で、山の高さと遠さをまず示す。
 二句「たなびきわたる」は、一面にたなびいている、の意である。「わたる」は動作が広い範囲に及ぶことを表す。本巻の第九百一首の「白雲のたなびく山」と同じ景であり、白雲のかかる山は旅路の隔たりを示すものとして重ねて置かれている。
 三句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。
 四句「山のかけはし」は、険しい山の崖に沿って板などを渡して作った道である。雲のかかる高所に架けられた危うい道が思い描かれる。
 結句「今日や越えなん」は、今日こそ越えることになるのだろうか、の意である。係助詞「や」を受け、強意の「ぬ」の未然形「な」に推量の「ん」が付いた「なん」が連体形で結ばれる。本巻の第九百二首が見送る側から「山路越ゆらん」と思いやったのに対し、この歌は旅人自身の立場から山越えを前にした心を詠んでいる。

かけはし:険しい崖に板を渡して作った道
たなびく:雲や霞が横に長く引く
作者
紀貫之
出典
新古今和歌集
その他の歌