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しなが鳥猪名野を行けば有馬山
夕霧立ちぬ宿はなくして

歌の意味
しなが鳥の猪名野を行くと、有馬山に夕霧が立ちこめてきた。泊まる宿もないままに。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 910

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 旅の宿りを詠む一連の一首目である。猪名野を行くと有馬山に夕霧が立ちこめてきたが、泊まる宿はないと、日暮れの野を行く旅人の心細さを詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わらない。
 場面は旅の途中の夕暮れ、場所は摂津国の猪名野である。
 直接の契機は伝わらない。
 この歌は『万葉集』巻七に、摂津で詠まれた作者未詳の歌として収められている。

 初句「しなが鳥」は「猪名」にかかる枕詞である。
 二句「猪名野を行けば」は、猪名野を行くと、の意である。猪名野は摂津国の猪名川に沿う野で、有馬山とともに詠まれる歌枕である。已然形に「ば」が付き、行く途中で出会った景へと転じる。
 三句「有馬山」は摂津国の山で、猪名野から望まれる。地名を体言のまま置き、次の夕霧の景へつなげる。
 四句「夕霧立ちぬ」は、夕霧が立ちこめてきた、の意である。完了の「ぬ」で言い切る四句切れで、日の暮れてゆく野の景が示される。
 結句「宿はなくして」は、泊まる宿もないままに、の意である。倒置によって旅人の不安が最後に置かれる。本巻の第九百五首が衣を打つ音の聞こえる家に「宿や借らまし」と宿を求め得たのに対し、この歌では借りるべき宿がなく、宿の有無が反転している。

しながどり:「猪名」にかかる枕詞
ゐなの:摂津国の猪名川に沿う野
作者
よみ人しらず
出典
新古今和歌集
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