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言問へよ思ひおきつの浜千鳥
なくなく出でし跡の月影

歌の意味
尋ねてくれ、思いを残してきた興津の浜の千鳥よ。私が泣く泣く出てきた、その後に残る月の光のことを。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 934

詞書は前の歌に続き「守覚法親王家に五十首歌よませ侍りける旅歌」
 旅の月を詠む一連の五首目である。思いを残して泣く泣く出てきた後の月影のことを、興津の浜千鳥よ、尋ねてくれと、後にした地を振り返る。詞書によれば、守覚法親王の家で詠まれた五十首歌のうちの旅の歌である。
 作者の藤原定家は、藤原俊成の子で、鎌倉時代初期の歌人である。『新古今和歌集』の撰者の一人で、のちに『新勅撰和歌集』を撰進した。
 場面は旅立って後にした地を振り返る時、場所は駿河国の興津の浜である。
 直接の契機は、守覚法親王の家で詠まれた五十首歌の、旅の題である。守覚法親王は後白河天皇の皇子で、仁和寺の門跡である。

 初句「言問へよ」は、尋ねてくれ、の意である。命令形で言い切る初句切れで、次の浜千鳥に呼びかける。鳥に言問う趣向は、『古今和歌集』の在原業平の都鳥の歌に先例があり、本巻の第九百八首もその歌を踏まえていた。
 二句「思ひおきつの」の「おきつ」には、思いを「置き」の意と、駿河国の歌枕「興津」が掛けられている。
 三句「浜千鳥」は、浜辺の千鳥への呼びかけである。
 四句「なくなく出でし」の「なく」には、千鳥が「鳴く」意と、自分が「泣く」泣く出てきた意が掛けられている。過去の「し」で、旅立った時を振り返る。
 結句「跡の月影」は、出てきた後に残る月の光、の意で、体言止めで結ばれる。前歌が「立ち帰りまたも来て見ん」と再び訪れることを願ったのに対し、この歌は後にした地の月影を千鳥に尋ねさせており、後にした地を思う心が並べられている。次歌の結句も「袖の月影」で、二首が同じ「月影」で結ばれる。

こととふ:ものを尋ねる、便りをする
おきつ:思ひ「置き」の意と、駿河国の歌枕「興津」を掛ける
なく:千鳥が「鳴く」意と、人が「泣く」意を掛ける
作者
藤原定家
出典
新古今和歌集
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