月見ばと契り置きてし故郷の
人もや今宵袖濡らすらん
- 歌の意味
-
月を見たらお互いを思い出そうと約束しておいた故郷の人も、今夜この月を見て袖を涙で濡らしているのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十 羈旅歌 938
詞書は前の歌に続き「題しらず」
旅の月を詠む一連の九首目である。月を見たら思い出そうと約束しておいた故郷の人も、今夜は袖を濡らしているだろうかと、旅先の月から故郷の人を思いやる。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
作者名は記されておらず、前歌に続いて西行の作である。西行は俗名を佐藤義清といい、鳥羽院に北面の武士として仕えたのち出家した平安時代後期の歌人である。
場面は旅先で月を見る夜、場所は故郷を離れた旅先である。
直接の契機は伝わらない。
初句「月見ばと」は、月を見たならば、の意である。未然形に「ば」が付いて仮定を表し、別れの際に交わした約束の言葉を示す。
二句「契り置きてし」は、約束しておいた、の意である。過去の「し」で旅立ち前の約束を振り返る。本巻の第九百四十一首の「契りて出でし」と同じく、旅立ちの際の約束が詠まれる。
三句「故郷の」は、故郷の、の意である。本巻の第九百九首の「故郷人」と同じく、家に残した人を指す。
四句「人もや今宵」は、その人も今夜は、の意である。係助詞「や」による疑問で、結句の「らん」が連体形で結ばれる。「も」によって、自分と同じく故郷の人も、という思いが示される。
結句「袖濡らすらん」は、袖を涙で濡らしているのだろうか、の意である。「らん」は目の前にない現在の事柄を推し量る助動詞である。本巻の第九百三十五首が旅人自身の袖に映る月影を詠んだのに対し、この歌は故郷の人の濡れる袖を思いやっており、濡れる袖が旅人の側から故郷の側へと移されている。
ちぎる:約束する
ふるさと:故郷、住み慣れた土地
- 作者
-
西行
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-