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風すさみ伊勢の浜荻分けゆけば
衣かりかね波になくなり

歌の意味
風が吹きすさぶ中、伊勢の浜荻を分けて行くと、衣を借りることもできずに泣いているかのように、雁の声が波の上で鳴いているようだ。
鑑賞
巻第十 羈旅歌 945

詞書「題しらず」
 伊勢の浜荻を詠む一連の三首目である。風の吹きすさぶ伊勢の浜荻を分けて行くと、衣を借りかねて泣くように、雁が波の上で鳴いていると、寒い浜辺の旅を詠む。詞書は題しらずで、詠まれた事情は記されていない。
 作者の「前中納言匡房」は大江匡房である。平安時代後期の学者で公卿であり、権中納言に至った。有職故実の書『江家次第』を著した。
 場面は風の吹きすさぶ秋の浜辺、場所は伊勢の浜荻の茂る浜辺である。
 直接の契機は伝わらない。

 初句「風すさみ」は、風が吹きすさんで、の意である。荒れた風の中を行く浜辺の旅が示される。
 二句「伊勢の浜荻」は、伊勢の浜辺に生える荻である。前二首が結句に置いた語を、ここでは二句に置いている。
 三句「分けゆけば」は、分けて行くと、の意である。前歌の「分け過ぎて」を受け、浜荻の中を分け進む旅となる。
 四句「衣かりかね」の「かりかね」には、衣を「借りかね」の意と、「雁が音」が掛けられている。寒さに衣を借りることもできない旅人の身と、鳴き渡る雁とが一語に重ねられる。
 結句「波になくなり」の「なく」には、雁が「鳴く」意と、衣を借りかねて「泣く」意が掛けられている。「なり」は音によって推し量る助動詞で、波の上に雁の声を聞き取っている。前二首が浜荻を寝床とする旅寝を詠んだのに対し、この歌は浜荻を分けて行く道中を詠み、伊勢の浜荻の三首が寝床から道中へと移っている。

すさむ:荒れる、激しく吹く
かりかね:衣を「借りかね」の意と、「雁が音」を掛ける
なく:雁が「鳴く」意と、人が「泣く」意を掛ける
作者
大江匡房
出典
新古今和歌集
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