世を捨つる心はなほぞなかりける
憂きを憂しとは思ひ知れども
- 歌の意味
-
世を捨てる心は、やはりなかったのだ。つらいことをつらいとは思い知っているけれども。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑歌下 1769
詞書は前の歌に続き「五十首歌よみ侍りけるに述懐の心を」
世を厭いながら捨てきれない心を詠む歌の五首目である。世のつらさは身にしみて知っているけれども、世を捨てる心はやはりなかった、と詠む。つらさを知ることと世を捨てることとは別であると、自らの心を見つめている。
作者の「権中納言兼宗」は藤原兼宗である。藤原忠親の子で、権中納言に至った。
初句「世を捨つる」は、世を捨てて出家する、の意である。
二句「心はなほぞ」の「ぞ」は係助詞で、三句の結びへ係る。「なほ」は、やはり、の意である。
三句「なかりける」は、係助詞「ぞ」を受けて助動詞「けり」の連体形「ける」で結ぶ係り結びである。世を捨てる心はやはりなかったと気づき、ここで句切れとなる。
四句「憂きを憂しとは」は、つらいことをつらいとは、の意である。「憂き」「憂し」と同じ語を重ね、つらさを繰り返し噛みしめている。
結句「思ひ知れども」の「ども」は逆接の接続助詞である。倒置によって、思い知っているのに捨てられない、という矛盾を後から示している。前歌の、つらさと引き換えた命を惜しむ心と響き合う。
おもひしる:身にしみてわかる
- 作者
-
藤原兼宗
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
長らへて世に住むかひはなけれども 憂きに換へたる命なりけり
- 次の歌
-
捨てやらぬ我が身ぞつらきさりともと 思ふ心に道をまかせて