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ひさかたの天行く月を網に刺し
我が大君は蓋にせり

歌の意味
大空を渡っていく月を網に掛けとめて、わが大君はそれを蓋にしていらっしゃる。
鑑賞
巻第三 雑歌 240

詞書は前の歌に続き「長皇子、猟路の池に遊猟する時に、柿本朝臣人麻呂の作る歌一首并せて短歌」の「反歌一首」
 長皇子の狩猟をたたえた長歌に添えられた反歌である。天空を渡る月を狩りの網で捕らえ、貴人の頭上にかざす蓋にしていると、夜空の月を皇子の威光を飾るものに見立てている。狩りの網と月とを結びつけた奇抜で大胆な誇張が、人麻呂らしい讃美となっている。長皇子は天武天皇の皇子で、猟路の池は奈良県桜井市鹿路あたりとされる。
 作者の柿本人麻呂は、持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、長歌と短歌の両方にすぐれ、後世「歌聖」と仰がれた。

 初句「ひさかたの」 「天」「月」などにかかる枕詞である。
 二句「天行く月を」 大空を渡っていく月を、の意である。
 三句「網に刺し」 狩りに用いる網に月を掛けとめて、の意で、狩猟の場面から網を持ち出した見立てである。
 四句「我が大君は」 ここでは長皇子を指し、皇子にも「大君」の尊称を用いている。
 結句「蓋にせり」 蓋は貴人の頭上にさしかける絹張りの長柄の傘である。「せり」はサ変動詞「す」に存続の助動詞「り」がついた形で、月を蓋としてかざしていると言い切っている。

きぬがさ:貴人の頭上にさしかける絹張りの傘
さす:網などに掛けとめる
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
大宮の内まで聞こゆ網引すと 網子ととのふる海人の呼び声
次の歌
大君は神にしませば真木の立つ 荒山中に海を成すかも