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馬ないたく打ちてな行きそ日ならべて
見ても我が行く志賀にあらなくに

歌の意味
馬をそんなにひどく鞭打って急いで行かないでくれ。幾日も続けて眺めながら行ける志賀ではないのだから。
鑑賞
巻第三 雑歌 263

詞書「近江国より上り来る時に、刑部垂麻呂の作る歌一首」
 近江から都へ上る道中、美しい志賀の景色を惜しみ、馬を急がせるなと供の者に呼びかけた歌である。二度とゆっくり見られないかもしれない志賀の地への名残惜しさが、土地讃美となっている。次歌も同じく近江から上る時の歌で、配列上一組をなしている。
 作者の刑部垂麻呂は奈良時代初めの官人であるが、伝は未詳である。

 初句「馬ないたく」 「な」は二句の「そ」と呼応して禁止を表す副詞である。六音の字余りである。
 二句「打ちてな行きそ」 鞭打って行ってくれるな、の意で、「な〜そ」の禁止の形である。ここで句切れとなる。
 三句「日ならべて」 「日」は「け」と読み、日数の意である。日を重ねて、の意となる。
 四句「見ても我が行く」 見ながら私が行く、の意で、結句の「志賀」を修飾している。
 結句「志賀にあらなくに」 「なくに」は打消のク語法に「に」がついた形で、志賀ではないのに、と詠嘆を込めて結んでいる。

け:日、日数
作者
刑部垂麻呂
出典
万葉集
前の歌
矢釣山木立も見えず降りまがふ 雪に騒ける朝楽しも
次の歌
もののふの八十宇治川の網代木に いさよふ波のゆくへ知らずも