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矢釣山木立も見えず降りまがふ
雪に騒ける朝楽しも

歌の意味
矢釣山の木立も見えないほど降り乱れる雪の中、人々がにぎやかに参上する朝は楽しいことだ。
鑑賞
巻第三 雑歌 262

詞書は前の歌に続き「柿本朝臣人麻呂、新田部皇子に献る歌一首并せて短歌」の「反歌一首」
 新田部皇子に献った長歌に添えられた反歌である。矢釣山の木立も見えないほど雪の降りしきる朝、皇子の宮に人々が騒がしく参上する楽しさを歌い、皇子の宮の繁栄を祝っている。四句の「騒ける」は原文の用字から訓が定まらず、人々がにぎわう意や馬で駆けつける意などの解がある。新田部皇子は天武天皇の皇子で、矢釣山は奈良県明日香村八釣のあたりの山である。
 作者の柿本人麻呂は、持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、長歌と短歌の両方にすぐれ、後世「歌聖」と仰がれた。官位は低く、その生涯には不明な点が多い。

 初句「矢釣山」 矢釣山は明日香の八釣のあたりの山で、皇子の宮の近くとされる。
 二句「木立も見えず」 山の木立も見えないほどに、の意で、雪の激しさを示している。
 三句「降りまがふ」 「まがふ」は入り乱れて見分けがつかなくなる意で、雪が乱れ降るさまである。
 四句「雪に騒ける」 雪の中を人々が騒ぎにぎわっている、の意である。「騒け」に存続の助動詞「り」の連体形「る」がついた形である。
 結句「朝楽しも」 「も」は詠嘆の終助詞で、雪の朝の華やぎを楽しいと言い切り、宮の繁栄への祝福で結んでいる。

まがふ:入り乱れて見分けがつかなくなる
さわく:大勢が立ち騒ぐ、にぎわう
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
いつの間も神さびけるか香具山の 桙杉の本に苔生すまでに
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馬ないたく打ちてな行きそ日ならべて 見ても我が行く志賀にあらなくに