世間を憂しとやさしと思へども
飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
- 歌の意味
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世の中をつらく、身も細るほど恥ずかしいものと思うけれども、飛び去ることもできない。鳥ではないのだから。
- 鑑賞
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巻第五 雑歌 893
詞書は前の歌に続き「貧窮問答の歌一首 并せて短歌」
世の中をつらく恥ずかしいと思っても、鳥ではないので飛び去ることもできないと嘆く一首である。長歌で貧しい者の暮らしを問答の形で描いたのを受け、逃れられない人の世の定めを簡潔にまとめている。憶良の代表作として広く知られる。
長歌は、風雨まじりの寒い夜に、貧しい者が堅塩をなめ糟湯酒をすすって寒さに耐えながら、自分より貧しい者はどう暮らしているかと問いかけ、それに極貧の者が、竈に火の気もなく飯を炊くことも忘れた中で里長が税の取り立てに来るさまを答える形で構成される。左注に「山上憶良頓首謹上」とあり、誰かに献上したものとみられる。
作者の山上憶良は、大宝元年に任じられた遣唐使の少録として唐に渡った官人で、帰国後は伯耆守や東宮に仕える役などを経て、神亀年間の末に筑前守として筑紫に赴任した。人生の苦しみや家族への情愛、貧しさなど、暮らしに根ざした主題を、漢籍や仏典の教養を背景に詠んだ歌人として知られる。
初句「世間を」は、人の世をいい、巻頭の第七百九十三首と同じく「世間」の語で始まる。
二句「憂しとやさしと」の「やさし」は身も細るほど恥ずかしい意で、つらさと恥ずかしさを並べる。
三句「思へども」は逆接で、そう思うけれども、と次へ転じる。
四句「飛び立ちかねつ」は、飛び去ることができない、の意で、ここで句が切れる四句切れである。
結句「鳥にしあらねば」の「し」は強意で、鳥ではないのだから、と倒置によって理由を示して結ぶ。
よのなか:人の世、世間。仏教語「世間」を訳した語
- 作者
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山上憶良
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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一世にはふたたび見えぬ父母を 置きてや長く我が別れなむ
- 次の歌
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大伴の御津の松原かき掃きて 我れ立ち待たむ早帰りませ