古典和歌stream

恋ひわたる涙の川に身を投げん
この世ならでも逢ふ瀬ありやと

歌の意味
恋し続けて流す涙の川に身を投げよう。この世ではなくとも、あの世で逢う瀬があるかと思って。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 715

詞書「中院入道右大臣中将に侍りける時、歌合し侍りけるに、恋の歌とて詠める」
 中院入道右大臣源雅定が中将であった時に催した歌合で、恋の歌として詠んだ歌である。恋し続けて流す涙の川に身を投げよう、この世ではなくても逢う瀬があるかと思って、と詠む。涙を川に見立て、その「瀬」に逢瀬を掛けて、この世で逢えぬなら来世にでも逢いたいという切実な思いを表している。
 作者の「藤原宗兼朝臣」は平安時代後期の官人である。平忠盛の妻となった池禅尼の父にあたる。
 本巻の第七百十七首は本歌と同じ初句「恋ひわたる」で始まる。「涙の川」は第七百二十三首にも見え、第七百三十三首は「生田の川に身をや投げまし」と、川に身を投げることを同じく詠む。

 初句「恋ひわたる」は、恋し続ける、の意で、「わたる」は川の縁語となる。本巻の第七百十七首も同じ初句で始まる。
 二句「涙の川に」は、流れる涙の多さを川に見立てた表現である。本巻の第七百二十三首の二句「涙の川の」と同じ見立てである。
 三句「身を投げん」の「ん」は意志の助動詞「む」で、身を投げよう、の意である。ここで句切れとなり、四句以下と倒置の関係にある。
 四句「この世ならでも」の「ならで」は、でなくて、の意で、この世でなくとも、あの世であっても、の意である。
 結句「逢ふ瀬ありやと」の「瀬」は川の浅瀬に、恋人と逢う機会の意を重ね、二句の「川」の縁語となる。逢う瀬があるかと思って、の意である。

こひわたる:恋し続ける
あふせ:恋人と逢う機会。川の瀬に掛けていう
作者
藤原宗兼
出典
千載和歌集
前の歌
逢ふことをその年月と契らねば 命や恋の限りなるらん
次の歌
陸奥の十綱の橋に繰る綱の 絶えずも人に言ひわたるかな