荻風はふかはいもねて今よりそ
驚すかときくへかりける
- 歌の意味
-
荻の葉を吹く風が吹いたならば、眠りもしないで、これからは、あなたが私を起こしてくれるのかと聞くべきだったのだ。
- 鑑賞
-
七夕の贈答ののち、七月も末になった。帥の宮から「たいそう疎遠になってしまったが、どうして時々は便りをくれないのか。私を人並みにも思っていないようだ」という文が届いた。
女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
和泉式部から「ね覺ねはきかぬ成らん荻風はふかさらめやは秋のよな〳〵」が届くと、帥の宮はすぐに折り返し、「ああ、あなた。寝覚めねばとは。物思いをするときにこそ寝覚めもするだろうが、私の思いをいいかげんなものとは」と書いて、この歌を返した。
それから二、三日たった夕暮れ、帥の宮は思いがけず、いきなり車を和泉式部の邸に引き入れて降り立つことになる。
初句と第二句の「荻風はふかはいもねて」は、荻を吹く風が吹いたならば、眠りもしないで、という意味で、和泉式部の歌の「荻風」「ふかさらめやは」を受けている。「寝も寝で」は眠ることもしないで、の意で、「で」は打消の接続助詞である。
第三句から結句の「今よりそ驚すかときくへかりける」は、これからは、あなたが私の目を覚まさせてくれるのかと聞くべきだったのだ、という意味で、「驚かす」は目を覚まさせる、気づかせる、の意、「べかりける」は当然の助動詞と詠嘆の助動詞の組み合わせである。「ぞ〜ける」は係り結びである。和泉式部の「ね覺ねは」を受け、これからは眠らずに荻風を待とうと応じながら、言葉の上で負けを認める形をとって、相手の機知を楽しんでいる。
驚かす(おどろかす):目を覚まさせる、はっと気づかせる
寝(い):眠ること
- 作者
-
敦道親王
- 出典
-
和泉式部日記
- 前の歌
-
ね覺ねはきかぬ成らん荻風は ふかさらめやは秋のよな〳〵
- 次の歌
-
徙然と秋の日比のふるまゝに 思ひしらせぬあやしかりしも