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秋風はけしきふくたに戀しきに
かき曇る日はいふ方そなき

歌の意味
秋風は、わずかに吹くだけでも人が恋しくなるものなのに、このように空一面がかき曇る日は、言いようもないほど恋しい。
鑑賞
 石山寺から戻ったのち、八月の末、風がひどく吹いて野分となり、雨なども降った。和泉式部は、いつもよりも心細い気持ちで物思いにふけっていた。そこへ帥の宮から、いつものように文が届いた。折を心得たような便りに、和泉式部は日ごろの恨みも許して差し上げたい気持ちになった。
 女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
 野分の吹き荒れる日に帥の宮から「なけきつゝ秋のみ空を詠れは雲うちさはき風そはけしき」が届き、和泉式部はこの歌を返した。
 帥の宮は、なるほどそうであろうと思ったが、例によって訪れのないまま日が過ぎた。九月の二十日過ぎ、有明の月に目を覚ました帥の宮は、久しく会っていないと思い立ち、和泉式部の家の門を叩くことになる。

 初句と第二句の「秋風はけしきふくたに」は、秋風は少し吹くだけでも、という意味で、「けしき」は、ほんの気配ばかり、の意である。帥の宮の歌の「はげしき」の音を「けしき」と受け、激しい風に対して、わずかな風でさえ、と応じている。「だに」は類推の副助詞である。
 第三句から結句の「戀しきにかき曇る日はいふ方そなき」は、恋しいのに、空がかき曇る日は言いようもない、という意味で、「かき曇る」は帥の宮の歌の「雲うちさはき」を受け、「ぞ〜なき」は係り結びである。少しの秋風でさえ恋しいのだから、まして野分の荒れる日はと、相手の歌の言葉を巧みに取り込みながら、言葉に尽くせない恋しさを訴えている。

気色(けしき):様子、気配。ここでは、ほんのわずか
かき曇る(かきくもる):空一面が曇る
作者
和泉式部
出典
和泉式部日記
前の歌
なけきつゝ秋のみ空を詠れは 雲うちさはき風そはけしき
次の歌
秋の夜の有明の月の入まてに やすらひかねて歸りにし哉