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ことのはふかくなりにけるかな

歌の意味
木の葉の色が深くなったように、言葉の情けも深くなったことだ。
鑑賞
 夜明け前の月の贈答から二日ほどして、帥の宮は女車のようなよそおいで、そっと和泉式部のもとを訪れた。和泉式部は、昼間はまだ姿をお見せしたことがなかったので恥ずかしかったが、見苦しく隠れるわけにもいかず、またお言葉をかけられるまで恥ずかしがっているのもと思って、いざり出た。帥の宮は日ごろの無沙汰のことなどを語り、しばらく横になってから、「先日申し上げたように早く決心しなさい。こうした忍び歩きはいつまでも気恥ずかしく思われるし、かといって来ないのも気がかりなので、はかない世の中に苦しいのだ」と言った。和泉式部が「どのようにでもおっしゃるとおりにと思いますが、見ても嘆くということもあるかと思いわずらっております」と答えると、帥の宮は「まあ試してごらんなさい。塩焼き衣のように慣れ親しむことになろう」と言って、帰ろうとした。
 女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
 帰りぎわ、帥の宮は庭先の透垣のもとに、趣のある真弓が少し紅葉しているのを見て、高欄に寄りかかりながら、この下の句を口にした。
 和泉式部はすぐに「しら露のはかなくをくと見し程に」と上の句を付けて答えた。帥の宮は、やはり情趣を解する人だと趣深く思った。直衣姿に、えも言われず美しい衣を出し袿にした帥の宮の様子はたいそう立派で、和泉式部は、自分の目まで浮ついてしまったのかと思うほどであった。

 この歌は、帥の宮が下の句を先に詠み、和泉式部が上の句を付けて一首を完成させた短連歌である。「ことのは」には、色づいた真弓の「木の葉」と、二人のあいだで交わされる「言の葉」すなわち言葉とが掛けられている。
 「ふかくなりにけるかな」は、深くなったことだ、という意味で、「にけるかな」は完了と詠嘆の助動詞に詠嘆の終助詞が重なった形である。紅葉の色が深まることと、二人の言葉の情けが深まったことを重ね、邸に迎えたいという話を交わした直後の思いを、目の前の景物に託している。

真弓(まゆみ):ニシキギ科の落葉樹。秋に美しく紅葉する
透垣(すいがい):板や竹を間を透かして組んだ垣
出し袿(いだしうちぎ):直衣の裾から下に着た袿の裾を出して着る着方
作者
敦道親王
出典
和泉式部日記
前の歌
更ぬらんと思ふ物からねられねと 中々なれは月はしも見す
次の歌
しら露のはかなくをくと見し程に